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ポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)について

始めに

 ポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)は、予防接種(ワクチン)で防ぐことができる病気(VPD:vaccine-preventable diseases)の一つと考えられています。日本でもアメリカ合衆国でもポリオの予防接種(ワクチン)が行われていますが、2007年の時点では、日本は生ワクチンを、アメリカ合衆国は不活化ワクチンを用いているという違いがあります。ここでは、このポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)を話題とします。なお、ポリオ(polio )は、英語の病名のpoliomyelitis(ポリオミエリィティス:灰白髄炎)を省略したものです。poliomyelitis のうちの polio は、ギリシア語で灰色を意味する polios に由来し、脊髄などの中枢神経系の灰白質を示します。myelは、ギリシア語で髄(marrow)を意味するmyelosに由来し脊髄を示します。itis は炎症あるいは病気を示します。また、「小児麻痺」は「脊髄性小児麻痺」を省略したものです。ポリオの流行地では、5歳未満の小児の脊髄性の麻痺がよく見られたことにより、「小児麻痺(infantile paralysis)」がポリオの代名詞となったようです。しかし、大人のポリオもありえるので「小児麻痺」の病名は、適切とは言えないようです。例えば、第32代アメリカ大統領(1933年-1945年)のフランクリン・デラノ・ルーズベルト(Franklin Delano Roosevelt、 略称FDR、 1882年1月30日生まれ-1945年4月12日死亡)はポリオの後遺症で体の不自由がありましたが、ポリオに罹患したのは、1921年の39歳のことであり、小児期ではありませんでした。また、2006年の5-6月にアフリカのナミビアでポリオの流行がありましたが、確定された19人のポリオ患者は、14-51歳で、19人中14人(74%)は15-29歳でした(参考文献8)。ナミビアでは、乳幼児は近年のポリオ予防接種の徹底により免疫を持つものが多く、高齢者はポリオが蔓延していた過去の時代に感染して免疫を持つものが多いことから、免疫を持たないものが比較的多い若年の大人を中心とした流行になったものと考えられます。

流行は?

 1840年、ドイツの整形外科医Jacob von Heine(1800年4月16日生まれ-1879年11月12日死亡)が、ポリオを他の麻痺を起こす病気から区別して「脊髄性小児麻痺(infantile spinal paralysis)」と呼びました。また、1890年には、スウェーデンの内科医Oskar Medin(1847年-1928年)がポリオの流行性について報告しています。Medinの弟子のOtto Wickmanは、1905年のスウェーデンでのポリオの大流行を踏まえ、人から人への伝染性を示しました。Jacob von HeineとOskar Medinの名に因み、ポリオはハイネ・メディン病( Heine-Medin disease )と呼ばれることもあります(参考文献6)。

 アメリカ合衆国でポリオの流行がピークに達したのは、1952年のことです。21000人以上の麻痺患者が見られました。しかし、1955年にソークワクチン(Salk vaccine : 1914年10月28日ニューヨーク市に生まれ、1995年6月23日80歳で死亡したアメリカ合衆国のウイルス学者Dr. Jonas E. Salkに因む。)とも呼ばれる不活化ワクチンが認可されて使用され始めたことにより、ポリオの罹患率は、急速に低下しました。野生株のポリオウイルスの流行によるアメリカ合衆国の最後の患者は、1979年に発生しました。このときは、アメリカ合衆国中西部(ペンシルバニア州・ミズーリ州・アイオワ州・ウイスコンシン州)のアーミッシュ派の人たちの間でポリオの発生がありました。10人の麻痺型の患者と、5人の非麻痺型の患者とが見られました。この野生株は欧州のオランダから来たものと考えられました。

 なお、2005年4月12日はポリオワクチンの50周年の記念日でした。さかのぼる事50年前の1955年(昭和30年)4月12日、アメリカ合衆国ミシガン州アナーバー(Ann Arbor)のミシガン大学で疫学者のトーマス・フランシス博士が大規模な実地試験の結果、ソークワクチンが安全で有効なことを発表し、ポリオワクチンが初めて認可されることとなりました。インフルエンザワクチン開発の研究をしていたソークは、その経験を活用してソークワクチンを開発しました。

 日本でポリオの流行がピークに達したのは、1960年のことです。5606人の患者の発生が見られました。しかし、翌1961年に生ワクチンがソ連とカナダから緊急輸入されて使用され始めたことにより、ポリオの患者の発生は、急速に低下しました。1961年には2436人、1962年には289人の患者発生でした。なお、ポリオの不活化ワクチンがソークワクチンと呼ばれることがあるのに対し、ポリオの生ワクチンはセービンワクチン(Sabin vaccine)と呼ばれることがあります。セービンは、アメリカ合衆国のウイルス学者Dr. Albert B. Sabin(1906-1993)に因みます。ソークワクチンが最初に普及したのですが、腸管での免疫が期待できること、注射でなく飲み込むことで投与できること、生産コストが安いことなどの点でセービンワクチンが勝り、セービンワクチンがソークワクチンに取って代わって普及することとなりました。

 現在、WHO(世界保健機関)が中心になって全世界でポリオの予防接種を進めていますので、近い将来、全世界でポリオ患者の発生は見られなくなるかもしれません。1歳未満の乳児の間に総計4回のポリオの生ワクチンの接種をすることがWHO(世界保健機関)が中心になって進めているポリオ根絶のための対策の一つです。なお、ポリオの生ワクチンの接種時にビタミンAを与えることも行われています。発展途上国では、こどもたちのビタミンA欠乏症がよく見られます。ビタミンA欠乏症は目の障害や免疫力の低下を起こしますが、これらは発展途上国では、死亡に結びつきやすいです。2001年には、60カ国以上でビタミンAが与えられ、25万人のこどもの命を救ったと推計されています。ビタミンAは、食品では、肝臓、卵、パパイア、マンゴなどに多く含まれています。

 WHO(世界保健機関)によれば、2001年における全世界のポリオ患者の報告は537人でした。2000年が2979人であり、前年の約5分の1の数字です。1988年には125カ国で総計350000人以上のポリオ患者が発生していたと推計されています。1988年と比較すると500分の1以下の数字になっています。2001年の時点では、北インド、アフガニスタン・パキスタン、ナイジェリア・ニジェールでポリオ患者の発生が多いとのことです。発生が見られた国を列挙すると、インド・パキスタン・ナイジェリア・アフガニスタン・ニジェール・ソマリア・エジプト・アンゴラ・エチオビア・スーダンの10カ国でした。

 なお、WHO(世界保健機関)によれば、2002年における全世界のポリオ患者の報告は1918人でした(2003年6月24日時点でのWHOの集計による)。2002年末では、ポリオの発生が見られる国は、アジアの3つの国(インド、アフガニスタン、パキスタン)とアフリカの4つの国(ニジェール、ソマリア、エジプト、ナイジェリア)とに限られていました。

 2003年には、全世界のポリオ患者の報告は、784人と減少したものの、2004年には再び増加しました。

 WHO(世界保健機関)によれば、2004年における全世界のポリオ患者の報告はアフリカとアジアから1263人です(2005年3月15日時点でのWHOの集計による)。2004年には、ポリオの地域的発生がナイジェリア・インド・パキスタン・ニジェール・アフガニスタン・エジプトで続き、また、ブルキナファソ・中央アフリカ共和国(CAR)・チャド・コートジボアール・スーダンで再発しました。アフリカからの報告は1070人ですが、ナイジェリアが789人を占め多いです。アジアからの報告は193人ですが、インド136人、パキスタン53人、アフガニスタン4人です。

 WHO(世界保健機関)によれば、2005年における全世界のポリオ患者の報告はアフリカとアジアから2026人です(2006年8月22日時点でのWHOの集計による)。2005年には、ポリオの地域的発生がナイジェリア・インド・パキスタン・ニジェール・アフガニスタンで続き、また、カメルーン・アンゴラ・エリトリア・チャド・エチオピア・マダガスカル・マリ・スーダン・インドネシア・ネパール・カンボジア・イラン・サウジアラビア・ソマリア・シリア・イエメンで再発しました。報告が多かったのは、ナイジェリア823人、イエメン478人、インドネシア349人、ソマリア185人、インド66人、パキスタン28人、スーダン27人、エチオピア22人、ニジェール10人、アンゴラ10人、アフガニスタン9人でした。

 季節的には、温帯の地域では、ポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)は夏季に多い傾向があります。熱帯の地域では、季節による増減のパターンは見られません。

 なお、厚生労働省の流行予測調査事業において、日本でのポリオに対する免疫を持っている人の割合(抗体保有率)は、昭和50年(1975)から昭和52年(1977)生まれの方については、大部分の人がポリオワクチン接種を受けているにもかかわらず1型のウイルスに対する抗体保有率がやや低くなっている(昭和50年生まれは56.8%、昭和51年生まれは37.0%、昭和52年生まれは63.8%)ことが明らかになっています。昭和50年(1975)から昭和52年(1977)に生まれた方では、小さいころポリオワクチン接種を受けていたとしても、

1 ポリオウイルス常在国に渡航される時

2 お子さまがポリオの生ワクチン接種を受ける時(生ワクチン接種を受ける時期はお子さまと同時期)
については、ポリオワクチン接種について考えておくことが望ましいと思われます。最寄の保健所(横浜市では福祉保健センター)などにご相談下さい。

 ポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)は、日本の感染症法では、2類の感染症となっています。ポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)が疑わしい患者を診療した際には、早急に保健所(横浜市の場合は各区の福祉保健センター)までご相談ください。

どんな病気?

 ポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)の病原体であるポリオウイルスは、人の体の中には、口から入ります。ポリオウイルスが飲食物や手などに付着して口の中に入るようなことが考えられます。口の中に入ったポリオウイルスは、のどに定着したり、あるいは飲み込まれて、腸管に定着したりします。そして、その定着した場所で増殖します。発病前の段階では、ポリオウイルスは、のどや便の中に検出されます(なお、発病後には、ポリオウイルスがのどから1-2週間、便の中には3-6週間にわたってポリオウイルスが検出されることがあります)。ポリオウイルスは、さらに付近のリンパ組織へと侵入し、血液の流れに乗ります。そして、血液の流れに乗って中枢神経にたどり着き、中枢神経を侵すことがあります。脊髄の前角や脳幹の運動神経細胞でのポリオウイルスの増殖が、その部位の運動神経細胞を減らし、麻痺の症状を起こします。

 ポリオウイルスに感染しても、何の症状も出なかったり、はっきりとした症状が出ない場合が95%程度を占めると考えられています。何の症状も出なくても、便の中にはウイルスが排出され、他の人への感染源となりえます。

 ポリオウイルスに感染した者のうち、4-8%程度は、中枢神経系の症状は見られず、特徴的な症状がない不全型の発病となります。ポリオウイルスが口から入って3-5日後に、のどの痛み・軽い発熱・嘔吐・吐き気・腹痛・便秘・下痢(まれ)などが見られることがありますが、いづれも2-3日の内に良くなるのが通常です。

 ポリオウイルスに感染した者のうち、1-2%程度は、非麻痺型の無菌性髄膜炎となる場合があります。不全型の発病と同様な症状の後、数日後に首・背・脚などの硬さが出現します。知覚過敏や感覚異常が起こることもあります。これらの症状は2-10日続いて軽快します。

 ポリオウイルスに感染した者のうち、1%未満が、弛緩性の麻痺(麻痺型)となります。不全型の発病と同様な症状の後、1-7日の良好な状態が見られ、その後、発熱・頭痛・筋肉痛などを伴って発病します。最初に見られる不全型の発病と同様な症状については、大きなこどもや大人などでは見られない場合もあります。最初に見られる不全型の発病と同様な症状を除けば、潜伏期は、通常6-20日ですが、3-35日のこともあります。弛緩性の麻痺は、2、3日間程度進行し数日から数週間は変化がない定常状態の時期に入ります。発熱がおさまり体温が正常に下がると麻痺はそれ以上進行しないのが通常です。弛緩性の麻痺は、右半身と左半身では違いがあり、非対称的に起こります。感覚の消失は見られません。定常状態の時期を過ぎると、筋力の回復が見られることがあります。麻痺から完全に回復する人もいます。一方で筋力がわずかしか回復しない人もいます。発病から1年経っても筋力低下や麻痺の回復がみられない場合には、永続的な後遺症となるかもしれません。

 弛緩性の麻痺(麻痺型)については、脊髄麻痺型、球麻痺型、脊髄麻痺・球麻痺型の三つの型に分類されます。脊髄麻痺型がもっともよく見られ、麻痺患者の79%を占めます。左右が非対称な麻痺で、脚の麻痺が多いです。球麻痺型は、麻痺患者の2%を占めます。脳神経支配の筋肉の筋力低下が見られます。食物を飲み込みにくくなったり、発音しにくくなったり、呼吸不全を起こしたりします。脊髄麻痺・球麻痺型は、19%を占めます。脊髄麻痺と球麻痺とが見られる型です。

 弛緩性の麻痺(麻痺型)を起こした場合の致死率は、こどもでは2-5%ですが、大人では、10-30%とより高くなります。球麻痺の見られる場合には10-75%となります。

 ポリオウイルスは、家族内では、感染しやすく、家族内に感染者がいれば、感染したことのない家族は、9割以上の確率で感染すると考えられています。

 こども時代に麻痺型ポリオにかかった人の25-40%で、30-40年後に新たに筋肉痛や筋力低下を生じる場合があります。ポリオ後症候群( post-polio syndrome :ポストポリオ症候群)と言います。ポリオウイルスが新たに病変を作るわけではありません。以前の病変部で加齢により細胞が脱落して起こるのではないかと考えられています。

病原体は?

 ポリオ(小児麻痺)の病原体は、ポリオウイルスです。ポリオウイルスは、ピコルナウイルス(小さなRNAウイルス)科のエンテロウイルスの仲間です。ポリオウイルスには、1型(P1)、2型(P2)、3型(P3)の三つの血清型があります。また、ポリオウイルスが患者の検体から分離された場合には、ワクチン株由来のワクチン型か、その他の野生型かが、必要に応じて調べられます。ポリオウイルスは、酸に強いですが、熱・ホルムアルデヒド・塩素・紫外線によって不活化します。

 ポリオウイルスの2型の野生株については世界から排除されたと考えられています。最後の分離は、インドで1999年10月でした。

予防のためには・・・

 ポリオには、予防接種(ワクチン)があります。ポリオの予防接種(ワクチン)には、不活化ワクチンと生ワクチンとがあります。

 ポリオの不活化ワクチン(IPV :inactivated polio vaccine )には、三つの血清型のポリオウイルスが含まれていますが、いずれもホルムアルデヒドで不活化されています。皮下あるいは筋肉内に注射されます。三つの血清型のポリオウイルスに対する免疫抗体が、2回接種後には90%の人で、3回接種後には99%の人で、獲得されます。

 現在アメリカ合衆国で使用されているポリオの不活化ワクチンは、以前のポリオの不活化ワクチンに比べて効力が増強されたものでアメリカ合衆国で1987年11月に認可されたものです。アメリカ合衆国での乳幼児に対するポリオの不活化ワクチンの接種スケジュールは、生後2ヶ月、4ヶ月、6-18ヶ月、4-6歳の総計4回の接種となっています。ポリオの不活化ワクチンは、ポリオ単独のワクチンもありますが、3種混合(ジフテリア・破傷風・百日咳)ワクチン、ヘモフィルス-インフルエンザb型菌ワクチン、B型肝炎ワクチン等と組み合わせた混合ワクチンもあります。ポリオの不活化ワクチンの副反応としては、注射部位に、痛み(14-29%)、しこり(3-11%)、紅斑(0.5-1%)が見られることがあります。

 ポリオの生ワクチン(OPV : oral polio vaccine )には、生きている弱毒の三つの血清型のポリオウイルス(ワクチンウイルス:ワクチン株)が含まれています。ポリオの生ワクチンは飲み込むワクチンです。生きている弱毒のポリオウイルス(ワクチンウイルス)は、腸の粘膜で増殖します。ワクチンウイルスは、ワクチン接種を受けた人の便の中に、接種後6週間にわたって出てくることがあります。ウイルスの便中への排出は、接種後1-2週間が特に多いです。不活化ワクチンでは見られないことですが、接種を受けた人から、その接触者にワクチンウイルスが感染することがあります。接種を受けた人の便などに接触した人が、ワクチンウイルスに感染することがあります。また、たいへんまれなことですが、免疫不全の人のなかには、長期にわたってワクチン由来のポリオウイルス(vaccine-derived polioviruses : VDPVs)を排出し続ける人もいるとされています。WHOによれば、そのような例は今までに19例知られているが現在も排出し続けているのは、2例であり、接触者の感染例も報告されていないとのことです(参考文献5)。免疫異常のある人や家族に免疫異常のある人がいる人は、ポリオの生ワクチンの接種を受けてはいけません。

 また、まれなことですが、ワクチンウイルスが人から人への感染を繰り返すうちに毒性をもったワクチン由来のポリオウイルス(vaccine-derived polioviruses : VDPVs)に変化し、ポリオの流行を起こすことがあります。そのようなワクチン由来のポリオウイルス(vaccine-derived polioviruses : VDPVs)によるポリオの流行の第1回目は、2000年にカリブ海のヒスパニオラ島(西部はハイチ、東部はドミニカ共和国の島)で21人のこどもに麻痺を起こしました。第2回目は、2001年にフィリピンで3人のこどもに麻痺を起こしました。第3回目は、2002年にマダガスカルで4人のこどもに麻痺を起こしました。また、ポリオ患者の検体をさかのぼって調べたところ、エジプトでも1988年から1993年の間にワクチン由来のポリオウイルス(vaccine-derived polioviruses : VDPVs)によるポリオの流行があり、30人のポリオ患者が発生していたとのことです。

 日本では、ポリオの生ワクチンは、6週間以上間隔をあけての2回の接種となっています。日本での調査では、1回の接種により、1型で92%、2型で99%、3型で66%の人たちで免疫抗体が獲得されるとされています。日本での調査では、2回の接種により、1型で98%、2型で99%、3型で87%の人たちで免疫抗体が獲得されるとされています。なお、アメリカ合衆国では、ポリオの生ワクチンの1回の接種により約50%の人たちで三つの血清型のすべてに免疫抗体が獲得されるとされています。アメリカ合衆国では、ポリオの生ワクチンの3回の接種により95%以上の人たちで三つの血清型のすべてに免疫抗体が獲得されるとされています。

 生ワクチンでは、ワクチン関連の麻痺型ポリオがまれに発生することがあります。アメリカ合衆国では、200万-300万人の生ワクチン接種に対して1人の麻痺型ポリオが発生しています。その結果、アメリカ合衆国では、以前、毎年8-10人のワクチン関連の麻痺型ポリオが発生していました。1980年以来、アメリカ合衆国では、麻痺型ポリオの発生総数の95%が、ワクチン関連の麻痺型ポリオです。ワクチン関連の麻痺型ポリオについては、ワクチンウイルスが増殖を繰り返す内にウイルス遺伝子に変異を生じ、神経への攻撃性の高いウイルスが生じて起こると考えられています。このようして神経への攻撃性の高いウイルスが生じることを、ワクチンウイルス(ワクチン株)が先祖のウイルス(野生株)の毒性を取り戻したとみなして、「先祖返り(reversion)」ということがあります。「先祖返り」については、ウイルスが増殖を重ねれば重ねるほど起こりやすいと考えられています。ワクチン関連の麻痺型ポリオについては、第1回目の接種でなる危険性が第2回目以降でなる危険性の7-21倍高いとされています。これは、今までポリオウイルスに対する免疫がなかったために、第1回目の接種を受けたこどもがポリオウイルス(ワクチン株)を排除するのに時間がかかり、そのため増殖を重ねる回数が多くなり「先祖返り」が起こりやすいためと考えられます。

 ワクチン関連の麻痺型ポリオについては、こどもたちよりは、18歳以上の大人の方がなりやすいです。また、免疫が正常なこどもより、免疫異常があるこども(特に無ガンマグロブリン血症や低ガンマグロブリン血症などのBリンパ球の異常のある場合3200-6800倍の確率で)の方がなりやすいです。

 1980-1998年にアメリカ合衆国で報告された144例のワクチン関連の麻痺型ポリオの内、41%が生ワクチン接種を受けた健康な人であり、31%が生ワクチン接種を受けた人と接触した健康な人であり、5%が生ワクチン接種を受けた人と接触が確認できないがワクチンウイルスによる感染を受けた人であり、24%が免疫異常のある人(19%が生ワクチン接種を受けた人であり、5%が生ワクチン接種を受けた人と接触した人)でした。日本でも、2000年にポリオの生ワクチンの定期予防接種が全国で一時見合わせとなったときには、ポリオの予防接種を受けたお子さんの父親に、ポリオと同じ様な麻痺の症状があらわれたという報告が新聞報道などで話題となりました。なお、現在のアメリカ合衆国では生ワクチンは使用されなくなっていて、ワクチン関連の麻痺型ポリオについては、1999年を最後にアメリカ合衆国では発生していません。また、免疫異常のある人や家族に免疫異常のある人がいる人は、ポリオの生ワクチンの接種を受けてはいけません。

 近年、ワクチン関連の麻痺型ポリオの可能性を排除するために、ポリオの定期予防接種を生ワクチンから不活化ワクチンに変更する国が多くなってきています。WHOによれば、1988年には不活化ワクチンだけを使用している国が5カ国(フィンランド、フランス、アイスランド、オランダ、スウェーデン)、不活化ワクチンと生ワクチンを組み合わせたスケジュールとしている国が1カ国(デンマーク)でしたが、2002年末では、不活化ワクチンだけを使用している国と地域が22、不活化ワクチンと生ワクチンを組み合わせたスケジュール(前半で不活化ワクチン、後半は生ワクチン)としている国と地域が8となっています(参考文献5)。

 生ワクチンのみでも、不活化ワクチンのみでも3回の接種で100%近くの人で免疫が獲得されると考えられています。ところが、生ワクチンと不活化ワクチンを取り混ぜて3回では、特に3型のウイルスに対する免疫の獲得で劣る(85%とする研究あり)とされています。ポリオの生ワクチンと不活化ワクチンを取り混ぜて全部で3回接種したというような場合には、アメリカ合衆国では、4回目の接種が勧められています。

関連ウェブページ

  1. 横浜市健康福祉局からのお知らせ
      「横浜市立市民病院でポリオワクチン予防接種(任意)を受けることができます。」

参考文献

  1. Poliomyelitis Prevention in the United States : Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices ( ACIP ) ; MMWR. Recommendations and Reports. / May 19, 2000/Vol.49/No.RR-5/p.1-22.
  2. Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases ( The Pink Book ) Course Textbook , 9th Edition(January 2006), NIP(National Immunization Program ),CDC.
    URL=http://www.cdc.gov/nip/publications/pink/
  3. 「ポリオ予防接種検討小委員会報告書」公衆衛生審議会感染症部会ポリオ予防接種検討小委員会、平成12(2000)年8月31日
    URL=http://www1.mhlw.go.jp/topics/polio/tp0831-1_11.html
  4. Bulletin of the World Health Organization, 2000, vol.78 (no.3), Special Theme: Polio Eradication
  5. Introduction of inactivated poliovirus vaccine into oral poliovirus vaccine-using countries. ; Weekly Epidemiological Record, No. 28, 11 July 2003, 78th year, p.241-250.
  6. J M S Pearce ; Poliomyelitis (Heine-Medin disease) ; Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2005;76;p. 128.
  7. WORLD HEALTH ORGANIZATION ; PERFORMANCE OF ACUTE FLACCID PARALYSIS (AFP) SURVEILLANCE AND INCIDENCE OF POLIOMYELITIS, 2005‐2006 (DATA RECEIVED IN WHO HEADQUARTERS AS OF 22 AUGUST 2006) ; WEEKLY EPIDEMIOLOGICAL RECORD, NO. 36, 8 SEPTEMBER 2006, 81st YEAR, p. 346-348.
  8. CDC ; Outbreak of Polio in Adults --- Namibia, 2006 ; MMWR. / November 10, 2006/Vol.55/No.44/p.1198-1201.

2002年5月24日初掲載
2002年6月10日増補
2003年7月23日増補
2005年3月25日改訂増補
2007年1月18日改訂増補

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成 - 2008年4月17日更新
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