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生物化学兵器について

はじめに

 生物化学兵器とは、生物兵器(B:Biological weapon )と化学兵器(C:Chemical weapon )とを意味します。核兵器 ( N : Nuclear weapon ) と合わせてNBC兵器としてまとめられることもあります。いずれも大量殺戮の可能性のある兵器です。テロにおいてこの生物化学兵器が使用される可能性が心配されています。以下、生物兵器(B:Biological weapon )、化学兵器(C:Chemical weapon )の順に触れて行きます。

生物兵器(B:Biological weapon )について

 生物兵器とは、病原微生物による病原性を利用してヒト・動物・植物に害を与える兵器です。利用される病原微生物あるいはその毒素を生物剤といいます。生物剤によって起こる病気には主に、下の表1に示すようなものがあります。生物剤は細菌・リケッチャ・ウイルス・毒素と多様です。テロリストがこのような細菌・リケッチャ・ウイルス・毒素を噴霧等することにより、吸いこんだり飲み込んだりしたヒトが被害を受ける可能性が心配されています。なお、下の表1でLD50とは、実験動物の集団で毒素を与えた場合、ちょうど半数が死ぬような一匹あたりの毒素の分量を言います。LD50が少ないほど強力な毒ということになります。マイクロは10のマイナス6乗を示します。

表1.主な生物剤による発病した場合の致死率等(主として参考文献3による。一部改変。)

病名あるいは毒素名 ヒトからヒトへの感染 吸気中にどのくらい菌があれば感染・発病するか 潜伏期(感染から発病までの期間) 発病した場合の致死率
吸入炭疽(肺炭疽) なし 8000-50000個の芽胞 1-60日 90-100%
ブルセラ症 なし 10-100個の菌 5-60日(通常1-2ヶ月) 治療されなかった場合で 5%未満
コレラ 少ない 1億-100億個の菌 4時間-5日(通常2-3日) 治療した場合で低いが、 治療されなかった場合では高い。 
鼻疽 率は低い 少ない量と思われる 吸入した場合10-14日 50%以上
肺ペスト 高率にある 100-500個の菌 1-6日 12-24時間以内に治療しなければ高率
野兎病 なし 10-50個の菌 1-14日(平均3-5日) 治療しなければ中等度
Q熱 まれ 1-10個の菌 10-40日 大変低い率
痘瘡(天然痘) 高率にある 10-100個のウイルス 7-17日(平均12日) 高率から中等度
ベネズエラ馬脳炎 率は低い 10-100個のウイルス 1-6日 率は低い
ウイルス性出血熱(エボラ出血熱等) 中等度 1-10個のウイルス 4-21日 ザイール株では高く、スーダン株は中等度
ボツリヌス菌毒素 なし 0.001マイクログラム/kg(A型のLD50) 1-5日 呼吸補助がなければ高率。呼吸補助があれば5%以下。
ブドウ球菌性腸毒素B なし 0.03マイクログラム/ヒトで無能 吸入後3-12時間後 1%未満
リシン(毒素) なし 3-5マイクログラム/kg(マウスのLD50) 18-24時間 高率
T-2マイコトキシン(毒素) なし 中等度 2-4時間 中等度

 上の表に見るように、生物兵器は多様です。発病した場合の致死率が高いものもあり、早期発見・早期治療ができるかできないかが命を左右する場合もありえます。生物剤を噴霧するようなテロ行為が行われても、潜伏期というものがありますから、すぐに患者が発生するわけではありません。テロ行為が行われた時点でテロ行為をつかむのはなかなかむずかしい可能性があります。テロ行為の発生や患者の発生を早く知って、早く適切に対応することが大切です。そのためには生物兵器によるテロ(バイオテロ)への対応について医療機関・保健所・衛生局・衛生研究所・警察などがよく連携をとることが大切です。

化学兵器(C:Chemical weapon )について

 化学兵器とは、化学物質の有する毒性や刺激性などを利用してヒト・動物・植物に害を与える兵器を言います。利用される化学物質を化学剤と言います。

 化学剤には次の6種類があります。

 1. 神経剤 神経剤には、G剤 (サリン・ソマン・タブンなど:常温で液体だが揮発性高く、ガスとして吸入でも作用。)とV剤 (VX:揮発性低く、液体のまま用いられる。)とがあります。いずれも、無色・無臭で、脂溶性が高く、皮膚からも吸収されます。また、いずれも空気より重く、下を這うようにして広がります。曝露により死に至る場合があります。

 ところで、アセチルコリンは神経から放出される物質で、筋肉を刺激して収縮を起こしたり、分泌腺を刺激して分泌を起こしたり、あるいは他の神経を刺激します。アセチルコリンエステラーゼは、アセチルコリンが筋肉を刺激して収縮を起こしたり、分泌腺を刺激して分泌を起こしたり、あるいは他の神経を刺激したりしたとたんに、アセチルコリンを分解してしまいます。神経剤は、アセチルコリンエステラーゼと結合して、アセチルコリンの分解を止めてしまいます。そのため、アセチルコリンが過剰となり、筋肉収縮・分泌腺分泌・神経刺激が持続することになります。

 アセチルコリンエステラーゼの阻害作用→アセチルコリンの蓄積 → 瞳孔収縮(目の前が暗くなる)・鼻水・神経麻痺→呼吸麻痺→死

 2. びらん剤 皮膚・目・呼吸器に作用し接触面をびらん(やけど)させる。常温で液体。 液体・蒸気で作用。主なものは、マスタード類とルイサイトなどです。

 マスタード類 身体では湿った部位に強力に作用。曝露後数時間で障害出現。 曝露時に痛まないことから、曝露時に気づかないこともあります。 曝露により死に至る場合があります。 肺水腫・気道粘膜の壊死 → 二次性細菌性肺炎 → 死

 マスタード類は骨髄幹細胞の障害を起こします。

 ルイサイト 曝露後ただちに目および皮膚の痛み。 目については、1分以内に大量の水で洗い流さなければ失明の可能性あり。 皮膚に0.5ml付着でショック様。2ml付着で致死率高い。 BALが拮抗薬。

 3. 窒息剤 吸入により肺水腫を起こし死に至る可能性あり。ホスゲン・塩素など。 ホスゲン 常温で気体。肺胞で水と反応して塩酸を生成し肺水腫を起こす可能性あり。空気より重く、下を這うようにして広がります。 症状が出るまで24時間以上の潜伏期あることあり。 干草のにおい、あるいは青いトウモロコシのにおいで無色。

塩素 常温で気体。粘膜で水と反応して塩酸を生成。粘膜・皮膚を強く刺激。 40-60ppmで肺水腫。430ppm30分で死亡。1000ppm数分で死亡。

塩素系の漂白剤・除菌剤として家庭で使用されるものからも発生する可能性があります。使用時には、使用上の注意を良く読み、風通しを良くするなど注意しましょう。

 4. シアン化物 血液によって細胞まで運ばれてから反応が起こるので血液剤とも言われます。細胞中でチトクロームオキシダーゼと結合し酸素利用を阻害します。ガスとして吸入されて作用します。液体は皮膚からも吸収されて作用します。主なものにはシアン化水素(青酸)と塩化シアンとがあります。 シアン化水素(青酸) 致死量吸入で15分以内に死亡。 沸点26度。空気よりやや軽い。 苦いアーモンドの匂いで無色。 塩化シアン 体内でシアン化水素に変化。 呼吸器の粘膜を刺激する作用もあります。沸点12.8度。

 5. 無(能)力化剤 少数の人を一時的に(長時間)動けなくする。主なものには3-キヌクリジニルベンジラートとリゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)などがあります。 3-キヌクリジニルベンジラート 中枢神経系抑制剤。抗コリン作動性物質。 1mg以下を1回投与でうわごとが数日続きます。瞳孔散大し幻覚出現。 リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD) 中枢神経系覚せい剤。幻覚出現。無臭・無色の固体で水に溶ける。

 6.暴動鎮圧剤 「5. 無(能)力化剤」が長時間なのに対し短時間動けなくする。 刺激剤(あるいは催涙剤) カプサイシン(トウガラシエキス) 日本で護身用スプレーとして使われています。 嘔吐剤 エアロゾルで使用される。コショウ様の刺激。流涙。くしゃみ。嘔吐。 アダムサイト 症状が出現するまでに数分かかります。

神経剤に対する、よく使われる治療薬としては、以下のものがあります。 PAM アセチルコリンエステラーゼの活性化作用。 アトロピン ジアゼパム 抗けいれん作用。

 ガスマスクは、活性炭による化学剤の吸着を期待する装備です。防毒マスクの記録に残っている最初の考案者は、15世紀のレオナルド-ダ-ビンチ( Leonardo da Vinci )であるとされています。しかし、体内への化学剤の侵入は、呼吸器からだけではありません。

 対毒ガス防備衣類は、皮膚からの化学剤の侵入を防ぎます。  化学剤は生物剤と比較するとテロ行為の発生から患者の発生までの時間が短い傾向があります。但し、中には窒息剤のホスゲンのように潜伏期が長いものもあります。化学剤においてもテロ行為の発生や患者の発生を早く知って、早く適切に対応することが大切です。そのためには化学兵器によるテロについても医療機関・保健所・衛生局・衛生研究所・警察などがよく連携をとることが大切です。

参考文献

  1. 健康危機管理関連情報 - 国立医薬品食品衛生研究所化学物質情報部
    http://www.nihs.go.jp/hse/c-hazard/index.html
  2. 生物兵器への対処に関する懇談会報告書(防衛庁・自衛隊)http://www.mod.go.jp/j/delibe/seibutu/houkoku.html
  3. USAMRIID`s medical management of biological casualties handbook (fourth edition , February 2001) : U.S.Army Medical Research Institute of Infectious Diseases ; Fort Detrick  Frederick , Maryland , U.S.A.
  4. Field Management of Chemical Casualties Handbook ( second edition , July 2000 ) : U.S.Army Medical Research Institute of Chemical Defense ( USAMRICD ) Chemical Casualty Care Division

2001年10月19日掲載

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成 - 2008年4月23日更新
電話: 045-754-9815 - FAX: 045-754-2210
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